上腹部MRIの見方① −シーケンスを4つに分類しよう−

上腹部MRIの読影を始めてみようと思ったけど,シーケンスの意味や目的が分からない何から見たらいいか分からない,ということはありませんか? 最近のMRIは撮影法や略語も多く,混乱することもありますよね.

今回は「上腹部MRIの見方」と題して,全3回の記事で上腹部MRIを読影するための基本をお伝えしようと思います.第1回の今回は,シーケンスを4つに分類して,いま見ているシーケンスがなんなのか大まかにあたりをつける,ということについてお話します.

T1強調像 or T2強調像

組織にはT1値,T2値という固有のパラメーターがあります.詳細は省きますが,T1値やT2値はそれぞれ縦緩和時間,横緩和時間という特定の時間(単位はmsec)を表しています.このため,小さい・大きいではなく,短い・長いと表現されます.

T1強調像(T1WI)は組織のT1値の違いを強調し,T2値の影響を少なくした
(T1強調かつT2強調)

T2強調像(T2WI)は組織のT2値の違いを強調し,T1値の影響を少なくした
(T2強調かつT1強調)

です.T1強調像はT1値が短い組織ほど信号となり,T2強調像はT2値が長い組織ほど高信号を示します.

T1WIとT2WI,どう見分ける?

さて,T1強調像かT2強調像かはどうやって見分ければよいのでしょうか?

水は人体に豊富に存在する物質のひとつですが,(自由水)のT1値,T2値はともに長く,T1強調像では低信号T2強調像では高信号を示します.

上腹部MRIを撮影した場合には,脊柱管内の脳脊髄液(CSF: cerebrospinal fluid)をチェックしましょう.脊柱管内のCSFが低信号ならT1強調像高信号ならT2強調像と覚えればOKです.

なお,胆嚢内や胆管内の胆汁などもT2強調像で高信号を示しますが,病的な状態では様々な信号強度になり得ますので注意が必要です.



上図: T1強調像(水が黒い)
下図: T2強調像(水が白い)

脂肪抑制あり or 脂肪抑制なし

脂肪は水とともに人体に多く存在している物質です.MRIはプロトン(水素原子)の信号を画像化する技術であり,水のみならず脂肪からも信号を取得しています.また,脂肪は水と異なりT1強調像・T2強調像のどちらも高信号(水はT1強調像では低信号,T2強調像では高信号でしたね)を示します.

このため,T1強調像やT2強調像で高信号を示す病変の周囲に脂肪が存在する場合,病変の信号が埋もれて見つけにくい、という問題が生じます.この問題を解決するためには,脂肪の信号を抑制する必要(背景信号の抑制)があり,これが脂肪抑制法です.

脂肪抑制法にはいくつか種類がありますが,ここでは脂肪抑制をかけた画像とそうでない画像がどのような見た目になるかを確認しましょう.脂肪抑制法はT1強調像にも,T2強調像にも併用でき,それぞれ脂肪抑制T1強調像(FS-T1WI),脂肪抑制T2強調像(FS-T2WI)と呼ばれます.

脂肪抑制の有無,どう見分ける?

上述の通り,脂肪は人体に豊富に存在しています.脂肪抑制法が使用されているかどうかは皮下脂肪腹腔内の脂肪(後腹膜や腸間膜脂肪など)で判定するのが簡便です.

脂肪抑制法をかけると,皮下脂肪や腹腔内脂肪低信号に変化します.脂肪抑制法をかけない場合には皮下脂肪や腹腔内脂肪は高信号のまま(もともと脂肪はT1強調像でもT2強調像でも高信号)です.

このため,皮下脂肪や腹腔内脂肪が低信号であれば,脂肪抑制法を併用した画像であることがわかります.

ただし,非常に皮下浮腫が強い場合などの病的な状態では,これらの部位で脂肪抑制をかけても信号が低下しない(例えば皮下浮腫があると脂肪抑制T2強調像で高信号を示します)ことがありえますので注意しましょう.

また,脂肪抑制法の種類や磁場の乱れなどによって脂肪抑制がうまくかからない場合があり(脂肪抑制ムラなどと表現されます),必ずしも均一に脂肪抑制がかかっているわけではないことにも注意が必要です.

上図: 脂肪抑制なし(皮下脂肪・腹腔内脂肪が白い)
下図: 脂肪抑制あり(皮下脂肪・腹腔内脂肪が黒い)

まとめ

ここまでをまとめると,シーケンスはT1強調像かT2強調像か,脂肪抑制法の併用ありかなしか,という2点によって4つに分類することができます.すなわち,

①T1強調像(T1WI)水がくて脂肪は

②T2強調像(T2WI)水がくて脂肪も

③脂肪抑制T1強調像(FS-T1WI)水がくて脂肪も

④脂肪抑制T2強調像(FS-T2WI)水がくて脂肪は

ということになります.水は脊柱管内の脳脊髄液(CSF),脂肪は皮下・腹腔内脂肪で評価しましょう.

表にまとめると下記のようになります.

それぞれに対応するシーケンスの画像は下記のようになります.


左上: T1WI (水が黒くて脂肪が白い)
右上: T2WI (水が白くて脂肪も白い)
左下: FS-T1WI(水が黒く脂肪も黒い)
右下: FS-T2WI(水が白く脂肪が黒い)

いかがでしたでしょうか?シーケンスがよくわからなくなった時にもまずは大まかに4つに分類することで,そのシーケンスの役割が見えてきます.水と脂肪の信号をチェックして,シーケンスを分類するクセをつけましょう.次回の上腹部MRIの見方②では,脂肪抑制法についてもう少し細かく解説する予定です.脂肪抑制法に詳しくなってMRIの読影を武器にしましょう.

 

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